ポルシェ911を語るうえで欠かせない要素のひとつに「空冷6気筒エンジン」、いわゆる「空冷フラットシックスエンジン」が挙げられます。生産終了から約30年。いまだに世界中のエンスージアストから熱狂的に支持され、「空冷エンジンでなければポルシェ911とは認めない」と譲らないマニアも数多く存在します。
今回はそんな多くのクルマ好きを魅了してやまないポルシェ911の「空冷エンジン」の秘密に迫りたいと思います。
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ポルシェ911の空冷エンジン時代(1963-1998)
空冷エンジンの仕組み
空冷エンジンとは、文字どおり「空気でエンジンを冷却する方式を採用したエンジン」を指します。エンジンを始動した瞬間から、内部ではガソリンと空気を混ぜた混合気が爆発を繰り返し、結果として熱を発します。
エンジンを冷やさずに高温の状態が続くと、オーバーヒートを起こしてエンジンが壊れてしまいます。エンジンに負荷が掛かれば掛かるほど高熱となるため、何らかのかたちで冷却する必要があります。
走行中であれば、車体にあたる空気をエンジンルームに送り込むことでエンジンを冷却することができます。これを「自然空冷式」といいます。
しかし、リアエンジンのポルシェ911では冷却風がエンジン本体にあたりにくい構造です。そのため、クーリングファンを装着・作動させることで、エンジンが動いているときは常に冷却風を当てることが可能となります。
これを「強制空冷式」といいます。お風呂上がりに顔の目の前に扇風機を当てて体を冷やす行為だと思えばイメージしやすいでしょう。
空冷式のエンジンは、シンプルな冷却構造であることから、部品数が少なく、低コストで製造することができたり、メンテナンスしやすかったり、といった機能的なメリットがあるのです。
空冷エンジンと水冷エンジンの違いについて
空気で冷却する空冷式とは異なり、水を用いてエンジンを冷却する方式を採用したのが「水冷エンジン」です。水冷エンジンのメリットとして、空冷式に比べてエンジンの冷却効率や、温度管理そのものの精度が高く、現代のクルマに搭載されるエンジンは基本的に水冷式を採用しています。
熱がこもりやすいエンジンの燃焼室やシリンダーの周辺にウォータージャケットを設置し、高温になった冷却水が走行風などによって冷却され、エンジンと循環する仕組みとなっています。
エンジンの冷却に用いられる冷却水(クーラント)はエチレングリコールを主成分とし、金属の錆や凍結などを予防する成分が含まれています。しかし、経年劣化とともにその性能が低下していくため、定期的な交換が必要です。
こうした構造により、効率的なエンジンの冷却だけでなく、エンジンの騒音が冷却水によって響きにくいなどというメリットも持ち合わせています。その反面、冷却のための配管、循環装置などによる複雑な構造や部品数の増加、冷却水のメンテナンス、重量の増加、コストの増加などのデメリットも持ち合わせています。
初代911の2.0L空冷フラット6エンジン
1950年代から60年代前半に掛けて、度重なる仕様変更を行ってきたポルシェ356。後の空冷911が同じ運命をたどるように、356としての性能アップもそろそろ頭打ちという状況のなか、後継モデルとして誕生したのが911です。
それまでのポルシェ356に搭載されていた空冷4気筒水平対向エンジンに代わって空冷6気筒水平対向エンジンが採用され、OHVからSOHCに変更。
オールアルミ製のクランクケースを採用し、ソレックス製の40PI型キャブレターが装着された排気量1991cc、901型エンジンの最高出力は130ps/6100回転、最大トルクは16.7kg-m/4600回転を誇ります。最高速度は200km/hを超える高性能を得ています。
当時の日本車はトヨタ パブリカやスポーツ800(いわゆるヨタハチ)、日産シルビア(初代)がデビューした時期であり、200km/hオーバーの日本車がデビューするのはトヨタ2000GTの登場まで待たねばなりません。いかに当時のポルシェ911が圧倒的なスペックを有していたかが分かります。
なお、1963年に開催されたフランクフルトショーに展示したショーモデルに対して、生産型となる1965年モデルでは、エンジンの仕様変更が行われています。エンジンの型式も901/01型となり、最高出力は130ps/6100回転と変わらないものの、最大トルクは17.8kg-m/4200回転となり、より低回転で最大トルクが発生するセッティングとなりました。
空冷エンジンの最後モデル「993型」
ポルシェ911の心臓部である空冷6気筒エンジン、いわゆる「空冷フラットシックスエンジン」を最後に搭載したモデルが、911としては4代目にあたる993型です。
1993年にデビューした993型は、ヘッドライトの形状が大きく変わったほか、前後フェンダーライン、バンパー、ワイパー、シート、6速MTの採用、そしてリアサスペンションの構造が、それまでのセミトレーディングアーム式からマルチリンク式に変更されるなど、ルーフラインを除き、あらゆる箇所が刷新されています。
また、ダブルイグニッションを採用したこの3.6リッター、2バルブエンジンの最高出力は当初は272psでしたが、仕様変更時に搭載された可変吸気システム(可変長式インテークマニホールド)「バリオラムエンジン」仕様で285psにパワーアップ、オプションで300psも用意されました。また、993型からは油圧タペットが採用され、タペット調整が不要となっています。
993型のデビュー当時は2輪駆動(駆動方式はRR)のカレラクーペおよびカブリオレの2モデルのみ。その後、カレラ4が追加され、電動スライド式のガラスルーフを採用したタルガ、ついにツインターボ&4WD化されたターボ、カタログモデルとなったカレラRS、ホモロゲーションモデルのGT2、ワイドボディを採用したカレラSおよびカレラ4Sと、さまざまなモデルバリエーションを展開していきます。
また、極めて少量生産ですが、スピードスターやターボカブリオレといったモデルも存在します。そして1998年、68,881台におよんだ993型の生産終了にともない、空冷エンジンの歴史は幕を閉じたのです。
空冷エンジンの魅力
空冷エンジンの魅力はやはりシンプルな構造に尽きます。冷却方法を空気に依存する方式が空冷エンジンの特徴です。
ポルシェ911のエンジンルーム中央に置かれたクーリングファン、いわゆる冷却ファンが、走行中だけでなく、停車中にもエンジン本体に空気を送り込むことで冷やしているのです。水冷式エンジンには必須であるラジエーターやその関連の部品を装着する必要がなく、単純に点数を減らすことができます。そのため、エンジン単体の重量を軽くできる場合が多く、コンパクトにまとめることができます。
そして何より、「空冷サウンド」と呼ばれる独特の乾いた音も魅力のひとつとして欠かせません。
ポルシェ911のエンジンが空冷から水冷に変わるとき、日本でも賛否両論がありましたが、ヨーロッパではそれ以上の拒否反応が起こるほど熱狂的なファンが存在するのです。
空冷エンジンは何故、搭載されなくなったのか
当初、ポルシェ911のエンジンの排気量は2リッターでした。しかし、モデルチェンジを繰り返すごとに排気量も拡大され、最終的には3.8Lエンジンとなったのです。それだけ排気量の多いエンジンは発熱量も多く、冷却するにも手間が掛かるようになっていきました。
結果として、世界各地の排気ガス規制をクリアしつつ、ポルシェ911としてのパフォーマンスを発揮するのが困難となっていったのです。
空冷エンジンは空気という一定ではない冷却風によってエンジンを冷やすため、水冷式に比べるとエンジン本体の温度管理が難しく、熱に弱いという弱点があります。結果としてエンジンが充分に冷却できないケース(高負荷時や渋滞時など)が生じます。
EU圏および北米などで年々厳しくなる排気ガスや騒音などの各種規制、さらに、性能向上にともなう発熱量の増加、生産コスト、水冷エンジンの技術の進歩…などなど。ユーザーから空冷エンジンが支持されていると分かっていても、遅かれ早かれこの方式とは決別するしかなかったのです。そのタイミングが1998年にデビューした「996型」だったということです。
空冷エンジンを今楽しむ方法はあるのか?
「空冷エンジンの魅力を人生で1度は味わってみたいが、中古車価格はいくらなのか?」と思う方もいらっしゃると思います。空冷911の最後のモデルとなった993型の中古車相場を調べてみましょう。
993型ポルシェ911の中古車相場
- 平均価格:1894.4万円
- 価格帯:798万円~13900万円
2024年4月現在のカーセンサーWebによると、993型の商品車のなかで最安値で約800万円。
もっとも高額な個体は約1億4千万円のカレラRSです。後者は例外としても、ほとんどの個体の価格が1000万円オーバーとなっており、カレラSやカレラ4S、ターボといったグレードは2000万円をオーバーしています。
もともと993型は空冷エンジンを搭載した最後の911ということで、生産終了後から現在にいたるまで常に高値安定でした。ただ、2010年代からの空冷911の価格高騰にともない、993型の相場もさらに上昇。一向に下がる気配はありません。
どのような方におすすめか?
「993に乗らなきゃ人生終われない」くらいの気概がある方にこそおすすめいたします。
最終モデルですら、すでに30年近い年月が経過した993型のポルシェ911。ナローポルシェと呼ばれる最初期の911では50年選手の個体となります。
日常の足として使うには厳しいといわざるを得ないでしょう。空冷911はあくまでも休日のドライブのパートナーとして接し、他に日常の足となる別のクルマが必須です。
また、ほとんどの993型が30年選手であることを考慮すると、車両本体価格+100万円以上のリフレッシュ費用を別途用意しておくと安心です。
契約後、納車までに交換が必要と思われる部品を総入れ替えできれば理想ですが、それにはかなりの費用(数百万円)が掛かります。また、モノによっては欠品ですぐには手に入らない可能性もあります。「壊れてから直す」のではなく「壊れる前に直す」ことが重要です。
多少、走行距離が伸びていても素性がはっきりしており、なおかつ空冷911に精通したショップで定期的にメンテナンスを受けている個体を選ぶようにしてください。そして、空冷911に精通した主治医を見つけることも非常に大事です。
空冷エンジンを搭載した911をお探しの方、また購入を検討されている方はぜひトップランクまでお問い合わせください。遠方の方、あるいはご多忙な方に向けた「オンライン商談」もご用意しております。テレビ電話方式でリアルタイムでセールススタッフと商談ができるほか、気になるクルマの状態をその場でご確認いただくことも可能です。