現在、街中を走るメルセデスベンツを見た際「AMG」の名前を目にすることが多くあると思います。今回は意外と知られていないAMGの成り立ち、現在までの経緯を含め解説をします。
AMG誕生秘話
まずAMG誕生の歴史からメルセデスベンツとの関係について紹介していきます。
AMGの創立
AMGの名前の由来は意外なことにとてもシンプルなものです。
2人のエンジニア「アウフレヒト」の「A」、「メルヒャー」の「M」そしてアウフレヒトが育った地名「グローザスバッハ」の「G」からなる、3つの頭文字を組み合わせ「AMG」の名は誕生しました。
1960年代、ハンス・ヴェルナー・アウフレヒトとパートナーのエアハルト・メルヒャーはダイムラーベンツ開発部門でレース用エンジンの開発に取り組んでいました。
ところがレース中の大事故により、ダイムラーベンツは全てのモータースポーツ活動を中止する判断をしました。。しかしレース用エンジン開発を行っていた2人のモータースポーツへの情熱は衰えず、グローザスバッハにあるアウフレヒトの自宅で、エンジン開発の技術をさらに磨きました。
AMGの実績
1965年、アウフレヒトとメルヒャーが開発したエンジンは“German Touring Car Championship”に出場し、10回の勝利を納めました。
その後、2人はレーシングエンジンの開発を行うAMGを設立します。
AMGでチューニングされたエンジンの評判はすぐにプライベートでレースに参戦するチームに広がり、なくてはならない存在となりました。
1980年代末、メルセデスベンツとオフィシャルレーシングパートナーとして協力関係を結び、メーカーのサポートを得てレースに参戦したAMGのレーシングカーは「ドイツツーリングカー選手権 (DTM)」にて、1988年から1993年の間に50回もの優勝を果たしました。
AMGとメルセデスベンツ傘下に入った経緯
1980年代末からオフィシャルレーシングパートナーとしての協力関係を築いたことで、1990年メルセデスベンツの販売ネットワークを通じ世界中でAMGモデルの販売が可能となりました。
このことで、AMGの知名度はさらに高まりました。1999年、アウフレヒトはAMG株の過半数を当時のダイムラークライスラーAGに譲渡、2005年にAMG株の100%を取得してメルセデスベンツ傘下となり、メルセデスAMGが誕生しました。
AMGがメルセデスベンツにもたらした影響とは
メルセデスベンツはそれまで、他の欧州プレミアムブランドのスポーツグレードに対抗するための商品力が不足していました。
AMGを傘下に加えたことで、モータースポーツやスポーツモデルを好むユーザー層への訴求力向上を行うことができました。
AMGの特徴
標準グレードから大幅に性能を向上させたAMGの特徴について触れていきます。
コンセプト
「ドライビング・パフォーマンス」という信念を掲げレースで培われた技術を市販車両にフィードバックするという理念のもと進化しています。
サーキットだけでなく公道でも最高のパフォーマンスを発揮するモデルをリリースすることで、ハイパフォーマンスカーとスポーツカーにおけるスタンダードを確立し続けています。
AMGが描いた夢の最たるものは、F1のパフォーマンスをロードカーに移植させ公道でそのパフォーマンスを発揮させることでした。
その夢は、AMG Oneという究極のロードカーという形で叶う時が訪れます。
エンジン
「One Man, One Engine」の哲学より4気筒、8気筒エンジンを手作業で組み立てています。
それは、1人の技術者がクランクシャフトの取り付けからエンジンオイルの充填に至るまでエンジン製造の全工程を担当しています。
組み立てられたエンジンのバッジには、技術者の名前が刻まれています。
AMGが現在販売しているモデルの多くはターボチャージャーを搭載したエンジンになります。
ターボチャージャーの制御技術は、モータースポーツからのフィードバックによって開発されています。
ツインスクロールターボの採用により低回転域からの出力向上とターボラグの低減を行っています。
さらに排気用タービンと吸気用コンプレッサーの間に薄型モーターを使用したエレクトリック・エグゾーストガス・ターボチャージャーを搭載し、ターボラグが発生する領域では電動でタービンの回転をサポートすることで、非常に優れたレスポンスを実現しました。搭載モデルはまた、電動ブーストをもたらすBSG(Belt-driven Starter Generator)によって低回転状態から瞬時に反応しダイナミックな加速を実現します。
そうすることでエンジン回転の全域で、ドライバーの繊細なアクセル操作にもリニアに反応します。ハイブリッドモデルでは、電動スーパーチャージャーを採用して滑らかな回転フィールとともに強烈に立ち上がるパワーを体験できます。
サスペンション
強い走りと操作性のバランスを保ち、「どんなカーブでも思い通りに操縦できる」という目標を達成することを信念としています。
そのため、強靭なエンジンパワーを受け止めるシャーシの役割も重要となります。専用開発セッティングとなるAMGライドコントロールサスペンションをすべてのモデルで選択することができるようになっています。
セッティング範囲はスプリング、電子制御ダンパーはもちろん、サブフレームまでもが専用開発となります。電子制御ダンパーはすべての速度域で絶大な安定性と、ドライバーの思った通りの俊敏性を叶えます。そのパフォーマンスは限界付近でも安心感のある操縦性と、長距離走行時の高い快適性をも両立します。
専用モデルについて
AMGのモデルは、メルセデスベンツの各モデルをベースとして専用チューニングを行っています。
それらのモデルとは別に、メルセデスAMGが思い描いた夢を具現化した専用モデルもリリースされています。
今回は2モデルについて紹介します。
AMG one
2017年、AMG創立50周年を記念してF1の最新テクノロジーを投入したハイパーカーをリリースしました。それは、自動車の形をした2名乗車可能なF1といっても過言ではないモデルでした。
エンジンはF1由来の1.6L V6 DOHC24バルブにシングルターボチャージャーを搭載。さらに前後4基のモーターを組み合わせたハイブリッドシステムとなっており、システム全体の出力は1063psを発生します。
リアエンジンには8速2ペダルMTのAMGスピードシフトを組み合わせ、フロントモーターは左右それぞれに駆動配分を行うことで高いコーナリング性能を誇りました。
最高速度は350km/h以上、0→200km/h加速は6秒以下のスペックを有しながらも、モーターのみでも25km走行可能です。
レーシングカーと見間違うボディにはフロントフェンダーに可動式ルーバー、リアウィングも2段の可動式タイプが装備されています。
インテリアは最新のメルセデスベンツ同様にメーター用、インフォメーション用にそれぞれワイドディスプレイが備わっていますが、シートポジションは固定式となり可動式のステアリング、各ペダルでドライビングポジションを合わせる形です。
限定275台、価格は300万ユーロ(当時の日本円として約4億2,000万円)でしたが、すぐに完売となりました。
AMG GT
2014年、初代AMG GTがメルセデスAMG誕生以降初のAMG専用車としてデビューしました。
ロングノーズ・ショートデッキの往年のクーペボディデザインで、ライバルにポルシェ911を見据えていました。
ボディ形状はデビュー時クーペのみでしたが、オープンモデルの「GTロードスター」が2017年に追加されました。
4リッター V型8気筒ツインターボチャージャー後輪駆動はモデルライフ中変わりませんでしたが、途中追加されたグレードや特別仕様車によって最高出力は異なります。
そして2023年に2代目にモデルチェンジしました。
ボディサイズは初代より全長が約180mm伸び、大型化しましたが、ロングノーズ・ショートデッキのデザインは継承されています。設定ボディタイプはクーペとなります。
大きな変更点は、乗員人数と駆動方式です。
初代の乗員人数は2シーターでしたが、2代目はオプションで後席を追加でき2+2を選ぶことができます。
エンジンは4リッターV型8気筒ツインターボチャージャーが継続採用されていますが、駆動方式は4MATIC(4WD)になり、よりパワーを余すことなく路面に伝えることが可能となりました。
AMG GTは、AMGが考える理想の形と性能を求め、常に進化を続けていくことでしょう。
AMGの魅力とは
AMGの魅力を一言で言うならば「速さへの飽くなき探求」になります。その魅力について詳しく見ていきます。
その魅力がもたらすものとは?
AMGはその生い立ちからもわかるように、エンジン性能を引き上げることに長けています。速さを追い求め、常にその時代の高性能エンジンの解を出し続けています。発足時からレースシーンでの大活躍を通じて、その名を知らしめてきました。
時代の流れと共に搭載エンジンのダウンサイジングが進みました。しかし、排気量が2リッターにもかかわらず、6.3リッター相当のパワーを生み出すことに成功しています。
AMGのエンブレムは、ベース車両モデルを示すアルファベットと自然吸気での相当排気量の数字が組み合わせられています。
現行のC63で例えた場合ベースはCクラス、自然吸気で6.3リッター相当という意味になります。実際、過去のモデルであるW204型C63は同等の出力で自然吸気6.2リッターエンジンを搭載していました。
現行モデルの多くは、その絶大なエンジンパワーを確実に路面へ伝えるための最善解として4MATIC(4WD)を選択しています。
走行状況によって前後トルクを100:0~50:50で配分することで、強烈な発進はもちろんワインディングでの一体感を持ったコーナリングと歓びに満ちた走りを愉しむことが可能となっています。
まとめ
AMGはレースで勝利するための最新技術を市販車両のロードカーへ反映させ、究極の「ドライビング・パフォーマンス」を追い求めてきました。
なぜ市販車両にそこまでの性能を与え続けているのかを考えた際、それはドイツならではの事情も関係していると考えられます。
速度無制限区間があるアウトバーンによって、誰もがその性能を確認できる環境があるためです。また、レースシーンの影響からAMGを選んだオーナーも、アウトバーン上で安全に先頭を切って走ってもらいたいという願いがあると思います。
今後電動化の流れにおいてもAMGらしさを前面に出したモデルを提供し続けていくことでしょう。
すでに電動化技術を搭載したモデルもリリースされていて、モーターならではのトルクを電子制御で緻密にコントロールする技術が生み出されています。
電動化によってエンジン屋としてのAMGの魅力が半減するわけではなく新たなハイパワーユニット用いた高性能車のリリースを行ってくれることでしょう。
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