ブレーキペダルの「遊び」とは?素人に調整は可能か。それともプロに依頼すべきか

ブレーキペダルの「遊び」という言葉を目にしたり耳にしたことはあっても、その具体的な意味までは分かりにくいと感じる方もいるでしょう。

そこでブレーキペダルの「遊び」にスポットを当てつつ、素人でも作業は可能なのか、クルマのプロフェッショナルである整備士に依頼すべきなのかを紹介していきます。

目次

ブレーキペダルの「遊び」とは

ブレーキペダルの「遊び」とは、ペダルを軽く踏んだときに実際にブレーキが効きはじめるまでのペダルの「踏みしろ」のことを意味します。通常、ペダルを数mm〜1cm程度踏み込んだ段階では、ブレーキフルードにはまだ圧力が掛かっていません。

その後、ペダルをさらに踏むと、マスターシリンダーが作動し、油圧が生じてブレーキが効きはじめます。

正常なブレーキペダルの「遊び」の目安は、普通乗用車の場合、ペダルの踏みしろの最初の5〜15mm程度です。あきらかに「スカスカ」だったり「効きはじめが遅い」「踏みしろが浅い」場合は速やかに整備工場で点検が必要です。

ブレーキペダルの構造の分類について

では次に、ブレーキペダルの構造の分類について紹介していきます。

機械式

油圧も空気圧も使わない機械式です。シンプルで整備性は高いものの、摩擦やワイヤー伸び、作動力不足が欠点です。現代のクルマではパーキングブレーキ(サイドブレーキ)にのみ残っています。

1910〜1940年代の自動車(フォードT型など)や、一部の軽2輪・3輪車(機械式ドラムブレーキ)、自転車のリムブレーキも構造原理はほぼ同じです。

油圧式

各車輪のシリンダーがピストンを押してパッドを当てる際に油圧が均等に伝わり、強い制動力を発生します。現代のほぼすべての乗用車、一部の軽トラックやスポーツカーも同様です。

細かく分類すると「単独油圧式(もっとも基本的な構造であり、国産の旧車に採用)」、「デュアル油圧式(二系統化。1970年代以降に普及)」、「ABS付き油圧式(電子制御モジュール追加。1990年代以降に普及)」といった3つに分けられます。

空気圧式

圧縮空気を使ってブレーキを作動します。トラックやバス、トレーラーなど大型車向けであり、空気を媒体にするため制動力が大きく、放熱性も良い。エア漏れ時は自動的に作動(フェイルセーフ)機構あり。エア供給システム(コンプレッサー、エアタンク)が必要です。

電子制御式

ペダルとブレーキ機構が機械的に直結していないのが最大の特徴といえます。ペダル操作量をセンサーで検出(踏み込み角・速度・力)〜ECUが最適な制動力を演算〜モーターや油圧ポンプが各車輪を制御し、ドライバーの感覚に合わせてペダル側のフィードバック装置が「踏みごたえ」を人工的に再現しています。

機械的な接続を省くことで、軽量化や応答性が向上するほか、回生ブレーキとの統合制御がスムーズ(ハイブリッドモデルやEVに最適)、電源喪失時にはバックアップ油圧回路または「機械的直結モード」に切り替わる安全設計です。

ハイブリッド方式

油圧式を基本に、電子制御で制動力配分や回生制御を行うタイプです。現在、ほとんどのハイブリッドカーやEVはハイブリッド方式を採用しています。

ちなみに、トヨタ「ブレーキ・アクチュエータ(ECB)」はプリウスなどに採用されています。ホンダ「i-Booster」はフィットe:HEVなどに採用されています。また、日産「インテリジェントブレーキ」はノートe-POWERなどに採用されています。

ブレーキペダルの遊びの調整手順について

ブレーキペダルの遊びの調整手順について、一般的な油圧式を例に紹介します。なお、安全のため、整備経験がある方または整備工場で行うことを強く推奨します。

ブレーキペダルの遊びの調整手順
  • 車両を安全な場所で停止し、エンジンを切る。ペダルに力がかからない状態にします。
  • ペダルブラケット部を確認。ブレーキペダルの上部、マスターシリンダー側に「プッシュロッド」と「ロックナット」があります。
  • ロックナットを緩める。ロッド長を微調整できるようにします。
  • プッシュロッドを回して長さを調整。
    長くする場合:遊びを減らす(早く効くようになる)
    短くする場合:遊びを増やす(踏みはじめに余裕ができる)
  • ロックナットを締め直す。ペダルの戻り位置・遊び量を確認します。その際、軽く踏んだ際の「空走距離」が5〜15mm程度か、ブレーキが引きずらないかチェックします。
  • ブレーキランプスイッチの作動も確認。ペダル高さを変えると、ブレーキランプスイッチの作動タイミングがずれることもあります。そのため、必要に応じて調整します。

ブレーキペダルの遊びに関して注意すべきことは?

「ブレーキペダルの遊びに関して注意すべきことは?」と問われてもピンとこないかもしれません。もっとも重要なことは「ブレーキペダルの遊び」が適切に設定されていることです。

そこで、ポイントとなるべきところをできるだけかみ砕いて下記にまとめました。

ブレーキペダルの遊びが少ない場合(遊びが少ない、またはゼロの場合)

ブレーキパッドが常にディスクローターに接触した状態となり、摩擦熱で過熱します。これはフェード現象による制動力低下を引き起こすだけでなく、最悪の場合、車両火災の原因にもなりかねないため注意が必要です。

燃費の悪化および安全性の低下

ブレーキが引きずった状態になると、走行中に常に余計な抵抗がかかるため、まず燃費が悪化します。しかし問題はそれだけではありません。

ブレーキペダルの遊びが大きすぎる場合(踏み込みが深すぎる、効き始めるまでの遅れが大きいなど)、実際にブレーキ力が立ち上がるまでタイムラグが生じ、緊急時に制動距離が延びる危険性があります。

さらに、遊びの大きさが単なる調整不良ではなく、「ブレーキフルード内に空気が混入しているサイン(エア噛み)」であることもあります。フルードに空気が噛んだ状態では油圧が正常に伝わらず、ブレーキが思うように効かなくなる可能性があり、極めて危険です。

定期的な点検と診断

ブレーキペダルの遊びの量は、部品の摩耗やフルードの劣化によって変化します。運転前や日常的な点検において、ペダルを踏み込んだ際の感触や遊びの量を意識的に確認する習慣をつけてください。

万一、ブレーキペダルの遊びの量に違和感を覚えたら、速やかに専門の整備工場で点検を受けてください。原因がマスターシリンダーの劣化、エア噛み、パッドの摩耗など、調整以外の根本的な問題である可能性が高いため、専門家による現状把握と点検整備が必要なためです。

フルードの状態を確認

ブレーキフルードは吸湿性が高く、水分を含むと沸点が下がります。これにより、ブレーキが過熱した際にフルード内に気泡が発生しやすくなり、ペダルが深く踏み込める(遊びが多く感じる)ベーパーロック現象を引き起こす可能性があります。

そのため、定期的なブレーキフルード交換を行うようにしてください。交換のタイミングは点検整備を依頼している工場のスタッフが教えてくれます。

ブレーキペダルの遊びの調整は素人でも行えるのか?

ブレーキペダルの遊びの調整は、素人でも行えるのでしょうか。結論としては「技術的には可能な場合もある」ものの、「非推奨」が基本です。その理由をまとめました。

安全性の根幹に関わる

ブレーキシステムは、クルマを安全に停止させるための重要な保安部品のひとつです。その調整に不備があれば、ブレーキが効かなくなる、あるいは効き過ぎてスリップを誘発するなど、重大な事故に直結する危険性があるからです。

専門的知識の必要性

各車種によって適切な「ブレーキペダルの遊び」の基準値や「踏み込み量」の許容範囲が異なります。これらの基準は、国土交通省が定める保安基準にも適合させる必要があります。

また、ブレーキペダルの調整は、マスターシリンダー内部のピストンの作動開始位置や、ブレーキランプスイッチの作動タイミングといった複雑なメカニズムを理解した上で行わなければなりません。専門的な知識と技術が求められます。

適切な工具と環境

調整作業には、車種専用の工具や、リフトアップしての点検が必要となる場合が多く、一般的な家庭においての作業では対応が困難です。

法的および保証上の問題

素人作業による不適切な調整は、保安基準を満たさなくなり、違法改造とみなされる可能性があります。また、自己判断による改造や調整は、メーカー保証の対象外となります。

ブレーキペダルの遊びの調整を必ずプロに依頼すべき理由とは?

では、改めて「ブレーキペダルの遊びの調整を必ずプロに依頼すべき理由」について紹介していきます。

安全性の確保(人命に関わるリスクの排除)

ブレーキシステムの不具合は、即座に人命に関わる重大事故に直結します。調整ミスによりブレーキが適切に作動しなくなれば、制動距離が伸びたり、まったく効かなくなるような事態を招きます。

逆に遊びが過少すぎると、ブレーキパッドが常にディスクローターに接触した状態(引きずり)になり、過熱によるブレーキ効率の低下(フェード現象)や、最悪の場合、火災の原因にもなり得ます。

専門的知識と技術の必要性

ブレーキ調整は、単にネジを回すだけの単純作業ではありません。プロの整備士は、メーカーが定める厳格な基準値に従って正確な調整を行い、安全性を確保します。マスターシリンダー内のピストンの位置、ブレーキブースターとの連携、ブレーキランプスイッチの作動タイミングなど、複雑なシステム全体の連携を理解している必要があります。

また、道路運送車両法に基づく保安基準を満たす必要があります。基準から逸脱した調整は、車検に通らないだけでなく、違法改造とみなされます。ペダルの遊びが大きい場合、調整不良ではなく、ブレーキフルード内の気泡(エア噛み)や、マスターシリンダー内部の劣化、パッドの異常摩耗といった根本的な故障が原因である可能性があります。

プロは、これらのサインを見逃さず、適切な修理・処置を施すことができます。

適切な工具と作業環境の有無

正確な作業には、適切な工具と整備環境が必要不可欠です。特殊な形状のレンチや、遊びを正確に測定するためのゲージなど、一般家庭では揃えにくい専用工具が必要な場合があります。

また、安全に車体を持ち上げるリフトや、的確な位置で作業できる環境が必要です。

保証と責任問題の明確化

自己判断による調整や改造を行った場合、メーカー保証の対象外となります。また、万が一、調整後に事故が発生した場合、自己責任能力が問われることになります。プロに依頼すれば、整備不良による事故の場合、修理工場がPL保険(生産物賠償責任保険)などで対応する責任を負うため、ユーザーは安心して任せられます。

結論として、ブレーキペダルの調整は、車両の安全性と直結する極めて重要な作業であるため、常にその道のプロフェッショナルである整備士に依頼し、確実な安全性を確保することが賢明です。

トップランクは輸入車の点検整備も行っております

トップランクでは、お客様に快適なカーライフを楽しんでいただくために、車検・12ヶ月点検といった法定点検はもちろん、万全の体制でサポートいたします。国産車・輸入車のほとんどの車種に対応するマルチテスター「ランチテック X431」をはじめ、メルセデス・ベンツ正規ディーラーでも使用している専用テスター「DAS」、アウディ・VW専用テスター「VAG-COM」、ランボルギーニやポルシェにも対応しているABSやエアバッグの異常ランプの消去や故障箇所の診断機「テクサ TEXA」をご用意しております。

 

お車に関するご相談や、気になる車種の故障リスクなど、どんな些細なことでもお気軽にお問い合わせください。

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